こんにちは。
9月も半ばになりましたが、日中はまだ暑い日が続いています。朝晩は少しずつ過ごしやすくなってきました。体調管理にはくれぐれもお気をつけください。
さて、乳児健診で赤ちゃんを診察していると、「向き癖があって頭のかたちが気になる」「首すわりが遅くないか心配」というご相談をいただくことがあります。
今回は、赤ちゃんが起きている時間に行う「うつぶせ遊び(タミータイム)」についてまとめておきます。
※写真はイメージです(AIで作成した画像)はじめに、ひとつお断りしておきます。こども家庭庁は今年2月にも「乳幼児の就寝中の窒息事故に注意!-うつぶせ寝は危険です-」という注意喚起を出しています。これからお話しするのは、眠っているときのうつぶせではなく、起きていて大人がそばで見ている時間の遊びのことです。
なぜ「うつぶせ遊び」をおすすめするのか
赤ちゃんは1歳になるまで、寝かせるときはあおむけが基本です。あおむけに寝かせたほうが乳幼児突然死症候群(SIDS)が起きにくいことが分かっており、こども家庭庁も「1歳になるまでは、寝かせる時はあおむけに寝かせましょう」と呼びかけています。これは変える必要のない、大前提です。
そのうえで気をつけたいのが、同じ向きばかりで過ごす時間が長くなることです。後頭部の同じ場所に体重がかかり続けると、そこが平らになりやすくなります。赤ちゃんを生後しばらく追いかけた研究でも、あおむけで寝かせること自体より、「いつも同じ向きを向いていること」のほうが頭のかたちと関係していました。また、うつぶせになる機会が少ないと、首や背中の筋肉を使う場面も減ります。
そこで、起きていて、大人がそばで見ている時間に、うつぶせで遊ぶ時間をつくるのが「タミータイム(tummy time)」です。「寝るときはあおむけ、遊ぶときはうつぶせ」と覚えていただくと分かりやすいと思います。
うつぶせで頭を持ち上げようとすることで、首・肩・背中の筋肉が育ち、首すわり、寝返り、はいはいにつながっていきます。これまでの研究をまとめた報告では、うつぶせ遊びの時間が長い赤ちゃんほど、首すわりや寝返りといった体を大きく動かす発達が進んでいたこと、後頭部全体が平らになりにくかったことが示されています。
いつから、どれくらい?
アメリカの小児科学会は、退院して家に帰ったその日から、赤ちゃんが起きているときに1回3〜5分、1日2〜3回のうつぶせ遊びを始め、嫌がらない範囲で少しずつ延ばして、生後1か月半ごろまでに1日合計15〜30分を目安にすることを勧めています。国内でも、生後1か月半ごろからと案内している自治体があります。
そのあと、まだ自分で寝返りやはいはいができない時期は、WHO(世界保健機関)が、起きている時間に1日合計30分以上のうつぶせの時間を、何回かに分けてとることを勧めています。つまり、まずは生後1か月半ごろまでに1日15〜30分、そのあとは30分以上、というのが目安になります。
あわせて、ベビーカーやチャイルドシート、抱っこひもなどに1時間以上続けて固定しないことも勧められています。
「30分」と聞くと長く感じるかもしれませんが、一度にまとめて行う必要はありません。おむつ替えのたびに数分、昼寝から起きたら数分、という積み重ねで十分です。
うつぶせ遊びのコツ
1. 始めるタイミング
- おむつ替えの後や、昼寝から起きて機嫌のよいときがおすすめです。
2. 最初は大人の胸の上で
- 新生児期は、親御さんがあおむけに寝転び、その胸の上に赤ちゃんをうつぶせに乗せる方法から始めると、赤ちゃんは顔を見ようとして頭を持ち上げます。
- 膝の上にうつぶせに乗せる方法も同じように使えます。
※写真はイメージです(AIで作成した画像)
3. 床で行うときは平らで硬めの場所で
- 床に薄いマットやバスタオルを敷いた、平らで硬めの場所で行ってください。
- 柔らかい布団やソファ、ベッドの上では、顔が沈んで呼吸がしにくくなることがあるので避けてください。
- 遊びが終わったら、タオルやおもちゃは片づけてください。こども家庭庁も、寝かせる場所については「寝床には何も置かずにすっきりと」と案内しています。うつぶせ遊びの道具を寝床に残さないことが大切です。
4. 嫌がるときの工夫
- 丸めたタオルを胸の下に入れて上半身を少し起こしてあげると、頭を持ち上げやすくなります(遊んでいる間だけにしてください)。※写真はイメージです(AIで作成した画像)
- 赤ちゃんの目の前に鏡やおもちゃを置いたり、親御さんが同じ目線に寝転んで話しかけたりすると、頭を持ち上げるきっかけになります。
- おもちゃを赤ちゃんの周りに円を描くように置くと、それを見ようとして体をひねるようになり、寝返りやはいはいの準備になります。
5. 泣いたら無理をしない
- 最初は数十秒で泣いてしまう赤ちゃんも多いです。泣いたら切り上げて、回数を増やす方向で慣らしていってください。
- 続けているうちに、頭を持ち上げていられる時間が少しずつ延びていきます。
6. 必ず目を離さない・眠ってしまったらあおむけに
- うつぶせ遊びは起きているとき、大人がそばで見ているときだけ行ってください。
- うつぶせのまま眠ってしまったら、あおむけに戻して寝かせてください。
頭のかたち(向き癖)が気になるとき
向き癖で後頭部の片側が平らになるのは、あおむけ寝が広まってから増えたものです。多くは月齢とともに目立たなくなります。片側が平らになるかたちは生後1か月半ごろ、後頭部全体が平らになるかたちは生後6か月ごろがいちばん目立ち、そのあとは少しずつ整っていきます。5歳半になったころにはっきりした変形が残っていたお子さんは、100人に1人ほどだったという報告があります。3〜4歳まで追いかけた研究では、「頭のかたちが心配」というご家族も、はじめは8割以上いたのが1割ほどに減っていました。
ただし、傾きが強いものは自然には戻りにくいことがあります。気になるときは、早めの時期にご相談いただくほうが対応の幅が広がります。
予防でいちばん大事なのは、同じところに続けて圧がかからないようにすることです。うつぶせ遊びはそのための一つで、同時に体を動かす練習にもなります。ご家庭でできることは次の4つです。
- 起きている時間のうつぶせ遊びを増やす
- 寝かせる向き、抱く向き、ベッドの位置(赤ちゃんが顔を向けたくなる方向)を日ごとに変える
- 授乳のときに赤ちゃんが向く方向、おむつ替え台に寝かせるときの頭の向きも、左右を入れ替える(この2つも、頭のかたちと関係することが分かっています)
- 同じ姿勢のまま長時間座らせたままにしない
頭のかたちを直すための枕(ドーナツ枕など)は、当院ではおすすめしていません。専門の学会の手引きでも、枕よりも寝かせ方・抱き方の工夫やリハビリのほうが勧められています。寝床に柔らかいものを置くことは、窒息を防ぐという点からも避けてください。
工夫を続けても変形が強くなっていくようであれば、そのまま様子を見ずにご相談ください。
ヘルメット治療について
頭のかたちが気になるとき、当院ではまず、うつぶせ遊びと向きの工夫を試していただくことをおすすめしています。軽い変形であれば、これで整っていくことがほとんどです。
それでも傾きがかなり強く残る場合には、頭のかたちを整えるヘルメット(頭蓋形状矯正ヘルメット)という方法があります。当院では扱っておりませんが、お考えになる場合はご相談ください。その前に、次のことを知っておいていただければと思います。
- 始める時期が早いほど効果が出やすいとされています。首がすわったころから生後6〜7か月までに始め、半年ほどかぶり続けるのが一般的です。始めるのが遅いほど、かたちが残りやすいことが分かっています。
- 傾きが軽ければ、ヘルメットをしなくても大丈夫とされています。対象になるのは、傾きがはっきりしている場合です。
- かたちの整い方を速めるのが主な効果と考えられています。海外で行われた研究では、2歳になった時点で、ヘルメットをした赤ちゃんとしなかった赤ちゃんに差がありませんでした。ヘルメットをしなくても、時間とともに整っていく部分があるからです。
- 発達をよくするためのものではありません。頭のかたちと発達の遅れには関係がありますが、かたちが遅れを起こしているというより、気をつけて見ておくべき目印と考えられています。小学生になってから調べた研究でも、ヘルメットをしたお子さんとしなかったお子さんに差はありませんでした。
- 毎日かぶり続ける負担があります。1日20時間以上を半年ほど。汗をかきやすく、軽い皮膚のかぶれはほとんどのお子さんに起こります。
- 健康保険は使えません(自費診療)。費用は施設によって違いますが、大学病院の案内ではヘルメットの作成費用を55万円(税込)としているところがあり、数十万円かかるとお考えください。頭のかたちの原因を調べる診察までは保険で受けられます。医療費控除の対象になる場合がありますので、受診される施設にご確認ください。
こうしたことから当院では、「する・しない」を一方的にお勧めするのではなく、傾きの程度と月齢、ご家庭のお考えを合わせて一緒に決めていくようにしています。まずはうつぶせ遊びから始めていただき、経過を見ながらご相談ください。
学会でもよく取り上げられるようになりました
ここ数年、小児科や脳神経外科の学会でも「赤ちゃんの頭のかたち」とヘルメット治療が、よく取り上げられるようになりました。研究の発表もありますが、それと並んで目につくのが、企業が共催する教育セミナーやランチョンセミナー(お昼の時間に行われる講演)です。
たとえば昨年の日本外来小児科学会の年次集会では、頭のかたちをテーマにしたお昼の講演が2つ組まれました。今年8月の年次集会でも同じように2つ組まれ、一般の演題にもヘルメット治療を扱った報告が出ています。昨年の小児の脳神経外科の学会では、「ヘルメット矯正」という枠で研究発表がまとめて行われ、企業が共催するお昼の講演もありました。日本小児科学会の学術集会でも、昨年はお昼の講演が1つ組まれ、頭のかたちについてのポスター発表も出ています。
お子さんが大きくなってから頭のかたちで悩まれるのは、親御さんにとっても本意ではないと思います。そうした方にとって、ヘルメット治療のニーズは間違いなくあると感じています。
ただ、「とにかくヘルメットを相談する、使う」という流れになる前に、その手前の時期に、お金をかけずにできることがあるということも知っていただきたいのです。うつぶせ遊びは、まさにその一つです。昨年の外来小児科学会では、向き癖や反り癖への対応とあわせて、うつぶせ遊びの取り入れ方を学ぶ実習も開かれ、事前の申し込みは定員に達していました。もう少し広く知られてよい方法ではないかと、個人的には考えています。
まれですが、注意が必要なこと
頭のかたちの変形の多くは、向き癖など体の向きによるものです。ただしまれに、頭のほねのつなぎ目が早く閉じてしまう病気(頭蓋骨縫合早期癒合症)が隠れていることがあります。後頭部が平らな赤ちゃん102人を調べた海外の報告で、この病気だったのは4人。国内の「頭のかたち外来」を受診した387人の報告でも10人で、頻度としてはまれです。
それでも見逃さないことが大切なので、
- 月齢が進んでも、かたちの変形が強くなっていく
- 母子健康手帳の成長曲線から、頭のサイズ(頭囲)の増え方が外れてくる
- 頭のつなぎ目のところに、硬い盛り上がりがある
といったことがあれば、健診の際にお伝えください。多くは診察で判断できますので、すぐにCTを撮ることにはなりません。
また、首がいつも同じ側にしか向かない場合は、斜頸(首の筋肉のかたさ)のことがあります。斜頸と頭のかたちは互いに影響し合いますので、こちらも健診の際にお伝えください。
当院の考え方
当院では、頭のかたちそのものよりも、赤ちゃんが自分の体を動かす機会をきちんと確保することを優先しています。うつぶせ遊びは、特別な道具も費用もかからず、ご家庭で続けやすい方法です。
国が作っている乳幼児健診の手引きでも、1か月健診では「向き癖への対応」を、頭を支えた抱き方(コアラ抱っこ)や、足がM字に開いた動きを妨げない抱き方と一緒に指導することになっています。抱き方を工夫することは、頭のかたちだけでなく、股関節の育ちにもつながります。
同じ手引きでは、生後3〜4か月ごろの健診で、うつぶせにしたときの姿勢(顔を上げて、肘で上半身を支えられるか)を診ることになっています。ふだんからうつぶせに慣れている赤ちゃんのほうが、本来の力を発揮しやすくなります。
健診の際に「うつぶせを嫌がる」「向き癖が強い」「頭のかたちが気になる」といったことがあれば、遠慮なくお声がけください。
乳幼児健診の受診の流れ
当院の乳幼児健診は日時予約制です。希望日の60日前から前日までに Web予約 をお取りいただき、乳児健診の問診票はご来院前にご記入ください。
横浜市では、4か月児健診・1歳6か月児健診・3歳児健診は、お住まいの区の福祉保健センターでの集団健診です。それ以外の節目の健診は、母子健康手帳別冊についている「医療機関乳幼児健康診査受診票」3枚を使って、医療機関で公費(無料)で受けられます。受けられる時期は、1回目が生後1か月(生後27日から41日まで)、2回目が生後5か月から8か月、3回目が生後9か月から12か月です。1回目は令和7年4月から「1か月児健康診査」になりました。
当院でも、この3回の健診を行っています。1回目(1か月児健診)をご希望の場合もお受けしていますので、ご予約の際にお知らせください。同じ日の午前または午後に予防接種とあわせて予約していただくと、健診と予防接種を一度に済ませることができます。
受診時の持ち物
- マイナ保険証(または資格確認書)
- 小児医療証
- 母子健康手帳・母子手帳別冊(医療機関乳幼児健康診査受診票)
- お薬手帳
- (あれば)頭のかたちや向き癖が分かる写真
最後に
「寝るときはあおむけ、遊ぶときはうつぶせ」。この2つを毎日の中で続けていただくことが、赤ちゃんの安全と発達の両方につながります。
「うつぶせにするのが怖い」「どのくらいやればいいのか分からない」という段階でのご相談も大歓迎です。どうぞお気軽にご相談ください。
赤ちゃんの頭のかたちを気にされている親御さんの、参考になれば幸いです。
今後とも十日市場こどもクリニックをよろしくお願い申し上げます。
参考にした資料
(※今回は下記以外にも膨大な参考資料、論文を確認して作成しました)
- こども家庭庁「赤ちゃんが安全に眠れるように ~1歳未満の赤ちゃんを育てるみなさまへ~」 https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/kenkou/sids/
- 国立成育医療研究センター「改訂版 乳幼児健康診査 身体診察マニュアル」(2021年) https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/shinsatsu_manual.pdf
- 横浜市「医療機関乳幼児健康診査」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kosodate-kyoiku/oyakokenko/shido/kenshin/muryouikujisoudan.html
- 横浜市「1か月児健康診査」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kosodate-kyoiku/oyakokenko/shido/kenshin/kennkousinnsa.html
- 慶應義塾大学病院「赤ちゃんの頭のかたち外来」(費用) https://babyhelmet.hosp.keio.ac.jp/
- 金沢大学附属病院「赤ちゃんの頭のかたち外来」(費用) https://web.hosp.kanazawa-u.ac.jp/department/special_depertment_babyhelmet.html
- 米国小児科学会 HealthyChildren.org「Back to Sleep, Tummy to Play」 https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/baby/sleep/Pages/Back-to-Sleep-Tummy-to-Play.aspx
- WHO「Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age」(2019) https://www.who.int/news/item/24-04-2019-to-grow-up-healthy-children-need-to-sit-less-and-play-more
- Hewitt L, et al. Tummy Time and Infant Health Outcomes: A Systematic Review. Pediatrics. 2020;145(6):e20192168. https://doi.org/10.1542/peds.2019-2168
- van Wijk RM, et al. Helmet therapy in infants with positional skull deformation: randomised controlled trial. BMJ. 2014;348:g2741. https://doi.org/10.1136/bmj.g2741
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